医療法人社団 爽風会 心の風 クリニック
精神保健福祉士・公認心理師 荒木章太郎
私はうつ病リワークデイケアで、休職者の復職支援を行い15年になる。当院では再発予防策の構築を目指し当事者研究を行うというコンセプトで、各個人の当事者研究をメンバー、スタッフがプロジェクトチームを作り協働して行う。すなわちメンバーは、個人の再発予防策構築を業務とする組織に半年程度所属し、そこでの体験から学ぶという治療構造である。利用者は当事者研究の結果をプレゼン発表してプログラムを終了する。例えば、あるシステムエンジニアの40代男性は卒業プレゼンで、生活習慣、ストレス対処法、再発防止策の構築していくことで、自分が生きていくためのシステムを作り上げているようだったと締め括っていた。このような治療文化ではメンバーにとって、SCTの理論はとても馴染むのではないかと考えるようになった。具体的には「システムの目的が生き残り、成長し変形する」ことや「情報はエネルギーである」という考え方、異なるものによってバラバラになるのではなく似ているものに結びつくことであるといった理念である。
私達は、SST、集団認知行動療法や自由連想による大グループ、デイケア運営会議や模擬会社組織によるオフィスワークなど大小様々な集団プログラムの体験から当事者研究を行う。これらの体験の中でネガティブな感情が好奇心といった探求のエネルギーに変わることで、うつによって活動が低下していたグループ全体が活性化し凝集性が生まれる。すると個人も元気になっていくのだ。最近気づいたことは、元気になり自身に向き合うようになると、互いの違いを認め、時に受け入れた時に彼ら個人が変化し自分らしさを恢復させる場面に出くわす。
しかし違いを認め合うには、まず互いに理解される体験も必要である。それはシステムが生き残る段階では安全や信頼が必要であることと関係するのかもしれない。更に私達は成長し変化するには痛みが伴うことを知り、得てしてその段階を回避することも体験し共有している。私達は協働して不確実性のあるものに直面し乗り越えることで、ストレス耐性を身につけているのである。
実際のグループでは「他に似ているように感じている人はいないか。」「全く別の感情を持っている人はいないか」という技法に留まっている。私達は、まだ各個人が集団との関係性を探求するのではなく説明する段階に留まっている。だからこそ、私はプログラムの中に機能的サブグルーピングを取り入れることはできないかと模索している。
集団精神療法のゴールを見据える際、気持ちを分かち合うだけで終わっては勿体無いように思う。なぜなら当院を卒業して復職したメンバーの多くが、望む望まざるに関わらず、現代社会における組織の問題を解決する改革者のサブグループの一員になっているからである。
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