先日集団精神療法学会で泉屋が話題提供を行った「心理療法に生かすSCT」の内容を、コラム向けに直したものを数回に分けて連載いたします。
カウンセリングのような個人へ援助する際にどのようにSCTの体験が役立つのかについて、興味がある方はぜひご覧ください。
3.自他の境界を区別する体験
今回は伝え返しが終わってから、相手の体験の似ているな、と思うことに関して、自分自身の体験を話すときのことを取り上げます。
この話すことは、2回目でも書いたように、伝え返しをしようと決めたときにはすでに思っているけれど、ひとまず持ったままにして出さずにいたものです。
それを改めて話そうとしたときに、ふと私は似ている気がしたけど相手にとってどうだろう、という思うことがあります。
そういう時には<私も緊張…? に近いから繋がれるかなと思ったんですが><私の場合だと話せるかなと思ってとてもドキドキしている感じです>と話してみて、<つながった感じします?>と相手に確認します。
「はい!」と返答があったときには、同じ感じだった! と嬉しくなります。
「ちょっと違うかもしれない」と言われたときには、そうか違ったんだな~と整理がつきます。SCTのグループでは、ちゃんと同じか、違うか、を識別するようにと言われているので、違ったときにも、違ったか~と受け止めやすい気がしています。違うこともあるよな、とフラットな感じです。
この、自分の気持ちをできるだけ率直に話した上で、相手と同じなのか、それとも違うのか、を確認しながらグループを行っていくことが、私はとっても普段の臨床に役に立っていると感じています。
2回目のコラムで書いた、自分の感じを持ったままでいることと合わせて、この相手と同じか違うかという確認を行うことによって、相手と自分を別のものだと区別する──臨床でよく言われている言葉でいえば「自他の境界を区別する」ことが体験できるからです。
「自他の境界を区別する」という言葉自体は研修などでも聞くことが多く、相手と自分を別のものだと区別するなんて当たり前だし、私はちゃんとできているものだと思っていました。ただ、実際のところはそうではありませんでした。
私は専門家として学ぶ中で、専門家の価値観が身についています。例えば自分の気持ちを大事にしたほうがいい、とかですね。自分の気持ちを大事にしてこそ、生きやすくなると思っているので、ついクライエントに伝えて同じように思うことを勧めなければ、となりがちです。
実際にSCTのグループに通う前は、自分の価値観をそのままカウンセリングで<気持ちは大事ですからねぇ>みたいに、相手に出してしまっていました。あくまで自分の価値観であって、クライエントは違うかもしれないとは思わずに。
これは自他の境界が曖昧になっていたなぁと今では思います。
グループに通う中で、同じだという思い込みに気づいて、価値観や感じ方が、自分と相手とは違って当然なんだとフラットに体験できました。
それにより、カウンセリングでも境界を意識できるようになりました。同じようなことを言うにしても言い方が変わりました。<いや~聞いていると、自分の気持ちはどうでもいいと思おうとしているように聞こえますが、どう?>なんて。あくまで私は思っているけれど、クライエントは違うかも、という言い方ですね。
カウンセリングに来る方では自他の境界が曖昧になって苦しむ人も多いと思っているので、カウンセリングの中ではできるだけ境界を尊重していきたいものです。
次回のコラムは、他の方から自分の体験を伝え返されるときのことを書いていきますね。たぶん連載の最終回も兼ねる予定です。しばしお待ちください。
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