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執筆者の写真世話人

「今、ここ」の気持ちと向き合う体験~SCT参加が心理臨床にもたらしたもの~

 こんにちは。SCA研究会世話人の泉屋です。

 早いもので2022年も終わりですね。2022年が終わるということは私にとっては精神科病院で心理士として働いて10年を超えるということでもあります(正確には年度末に、ですが)。

 私がSCTのセミナーに通い始めたのは2015年の冬、まだ働き始めて3年目のころです。そこから7年。私は初任者から中堅に足を踏み入れる年数を、SCTのセミナーで過ごしてきました。

 「今、ここ」の気持ちに向き合うというSCTのセミナーでの体験は、私自身がクライエントと向き合う際に様々な意味で役に立っています。私個人の経験ではありますが、今回のコラムでいくつかご紹介します。


 SCTのセミナーでは、「今、ここ」の気持ちにとにかく注目してグループで話し合います。2015年に参加した最初は、リーダーから「それは説明ですね。今の気持ちは?」と聞かれても、実際何が今の気持ちなのかさっぱりわかりませんでした。

 これが気持ちではないのか? 今の気持ちとは? 参加してる人の今話したことは説明だったの……? 今の気持ちを言おうとしても小手先でやっているような、確信が持てない、雲をつかむような時期でした。

 ただ、他の人に自分の気持ちを伝え返してもらったり、他の人が話すことを聞いたり、繰り返し続けていくうちに、腹の底から強く気持ちが上がってくる、これが、今の気持ちだ! とわかるような体験が出てきました。

 とはいえ、いつもはっきりと気持ちが体験できるわけではありません。いまだにおぼろげで雲をつかむような、そういう気持ちしかわからないときもあります。

それでも不思議と、おぼろげな気持ちでも区別がつくようになりました。自分の「今、ここ」の気持ちのハート(※核心の部分)が何か。例えば、どうもはっきりしないけど、ちょっと今、困っているらしい、という。

 自分の「今、ここ」の気持ちが区別できるようになって、判断基準の芯ができました。例えば友達と何か話すとき、一つの芯として自分の話したい気持ちを基盤に、話すことを考える。自分の行動を自分の気持ちで選べると同時に、どれだけこれまで選ばずになんとなく、で過ごしてきたのかと驚きました。自分の人生なのに。


 精神科病院での臨床に話を移すと、私は自分の「今、ここ」の気持ちが区別できるようになる前から、カウンセリングですでに伝え返しを意識するようにはなっていました。クライエントが何を言いたいか、たくさん話す方の話を闇雲に聞くのではなく、一番核心のところを返そう、と試みていました。セミナーで、自分が「今、ここ」の気持ちを伝え返してもらって心地よかったから、嬉しかったから、カウンセリングでもやってみようと始めたことでした。

 自分の「今、ここ」の気持ちが区別できるようになって行動を選べるようになってから、カウンセリングでもクライエントのハートがもっとよく見えるようになりました。例えばある時には“もっと良い大人になるべき”、という説明の裏に隠れて、“よい大人の取る行動でなくとも今の自分を大事にしたい”、というハートが「世間的にはちゃんとしたほうがいいと思うけど」なんて発言から見えました。私が「世間的にはちゃんとするべきとして、そうしたい?」と聞いてみると「いや」と返ってくる。そういう形でハートを伝え返してカウンセリングを行うようになりました。

 カウンセリングを続けて、「今、ここ」の気持ちを基盤に、状況的ないろんなことを加えて、選ぶ、考えることができるようになると、以前より楽になるクライエントがいるようでした。


 また、時にはどうしても苦しい「今、ここ」の気持ちを抱えるクライエントもいます。自分なんてダメ、どうしようもない。そういう思いは、クライエントの事情や考えを聞いていくと、世間の価値観やこれまでの体験が絡まってそう思ってしまっているのだろう、と推測できることも多いです。それでも、最初に話した時点では、クライエント自身は確かに一番の核心部分として自分がダメだと話している。

 そういうとき、私はついクライエントに「ダメではない」と言いたくなる私の「今、ここ」の気持ちを感じます。どうしようもなく苦しくて、助けてあげたくて、私がクライエントをそのままにしたくないから、多分こうだろうという推測を言いたくなってしまう。ケアテイキングロール(お世話役)ですね。

 自分の「今、ここ」の気持ちがわかるようになって、私が助けてあげたいという思いで動いても、クライエントのハートからはズレてしまう、まず今のクライエントのハートをしっかりと受け止めて聞こう、と自分の行動を選べるようになりました。自分なんてダメという思いを伝え返して聞いていると、私が何も言わずとも話が変わっていって、クライエント自身がダメなままではいたくない、できることをやっている、と話すように変わることを見てきました。


 自分の「今、ここ」の気持ちと向き合うことは、相手の「今、ここ」の気持ちにも向き合うことに繋がります。

 自分の「今、ここ」の気持ちを見失って苦しむクライエントが、改めて自分の気持ちを自分で見つける手助けをするために、私は私で自分の気持ちと向き合っている必要があると思っています。

 ただ、忙しく仕事する中で心理士である私自身も、ふと何が一番大事なハートなのかわからないまま、とにかく業務をこなすことに捕まりやすいのが現状です。

 私にとって月1回のSCTのセミナーは、「今、ここ」に向き合う体験をして自分の気持ちと向き合うことを思い出す絶好の機会となっています。色々な方が「今、ここ」に向き合う姿を見られるのも励みになり、かついろいろな向き合い方がある、と自分の想像の幅を広げてくれるように、思っています。

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